相続した土地を国が引き取ってくれる「相続土地国庫帰属制度」が、2023年4月から始まりました。手放したい山林などを抱える人にとっては便利な制度ですが、「引き取りの要件が厳しくて手続きが複雑。費用もかかり利用しにくい」といった不満の声も聞かれます。
親などから宅地や田畑、山林などの不要な不動産を相続した場合、まず売却を考える人が多いです。しかし、簡単には買い手が決まらない土地も多いです。特に1970~80年代ごろに価値の乏しい山林や原野を「将来高値で売れる」と勧誘して不当に買わせる原野商法が多発。引っかかった親世代が山林を購入し、売れずに保有し続けてきたケースもあります。
こうした土地を相続すると、自ら利用するあてもないまま相続税や固定資産税の負担がのしかかる場合があります。そこで選択肢として登場したのが国庫帰属制度です。
この制度には不要な土地だけを国庫に納められるメリットがあります。相続の際に土地の所有権移転登記をしていなくても申請できます。相続放棄という既存の制度もありますが、土地以外も含め一切の相続権を失ってしまうため、預金や証券などプラスの資産がほかにある場合は現実的な選択肢とは言えません。
一見便利な制度ですが、全ての土地で認められるわけではないです。法務省によると、2023年11月時点で国庫帰属制度の申請件数は1349件。内容は「田畑」「宅地」「山林」の順で多く、そのうち帰属が決まったのは48件にとどまったそうです。
国庫帰属制度には条件があり、申請できるのは相続や遺贈で土地を取得した相続人だけです。複数の人が所有権を持つ共有地の場合は、相続人を含む共有者全員で申請する必要があります。また、抵当権が設定されていないことが条件で、宅地などは更地にして引き渡す必要があります。
さらに、国に支払う審査手数料や負担金が生じます。地元の法務局で事前に相談し、提出した申請書の審査手数料は土地1筆あたり一律1万4千円。負担金は、土地の性質などを考慮し法務局が算出した10年分の土地管理費相当額となります。宅地や田畑などは原則20万円で、土地の面積などによって増加する可能性もあります。
法務局は実地調査などを行うため、審査には半年から1年ほどかかります。申請書類の作成は個人でもできますが、弁護士や司法書士、行政書士に頼むことも選択肢です。専門家は国庫帰属制度について、▽相続、遺贈で引き継いだ土地に限定▽審査手数料、負担金などの費用▽申請書など書面の準備、という三つのハードルを指摘しています。
手間や費用、時間がかかるため、相談者の中には民間の引き取り業者を活用する人も多いといいます。その場合は、相続登記をした上で業者に売却することになります。
ただ、農地法の制度があり、農地を売却する相手は農業従事者などに限られます。このため専門家は「手放したくても民間の引き取り手が見つからずに困っている人は多い。国庫帰属制度はそういう人にとっては良い仕組みだ」と話します。
新制度の導入の背景には、持ち主がわからない「所有者不明土地」の問題があります。相続登記などがされずに実質的な所有権が子供や孫の世代に細分化され、登記簿上の所有者が不明な土地は、全国で九州本土に相当する面積が存在するそうです。売却が進まず都市開発の妨げとなっています。
その対策として今年4月から不動産登記法の一部を改正し、土地や建物の相続登記の義務化が始まります。登記申請しないと10万円以下の過料を科される可能性があります。相続登記の義務化で土地の所有者をはっきりさせる代わりに、不要な土地については国庫帰属制度で引き取る、という事なのでしょう。
このため、国庫帰属制度は相続登記義務化を補完する位置づけと言えます。専門家は「残された家族が困らないように、土地の所有者は早めに相続について相談すべきだ」と指摘しています。
「私はどうだろう?」と少しでも不安に思われた方、まずは今のうちに現状を確認されてみてはいかがでしょうか。その際は当社へお気軽にご相談ください。